住宅ローンの『借りられるお金』と『返せるお金』は違う

たくさんのハウスメーカーの家が建ち並ぶ住宅展示場。山梨県内では「住宅公園」という名称で親しまれ、大型連休にはお子様が喜ぶような日替わりイベントで賑わっています。

山梨でこれから家を買いたいと思ったら、住宅公園や展示会に行く所から始める方が非常に多いです。

そんな住宅展示場のモデルハウスに足を踏み入れると目に映るすべてが輝いて見え、住宅の購入欲がぐんと上がってしまいます。

と同時に「こんな素敵な家を自分達でも建てられるの?」と不安に思い、案内してくれた営業さんに「私達でも建てられますか?」と聞いてみたくなる方も多いでしょう。

そんな質問を投げかけると、その営業さんはあなたに

・年齢
・年収
・勤務先
・勤続年数

を聞いてきます。そしてなにやら計算した後にこう言ってくるはずです。

大丈夫!あなたは住宅ローンをこの位借りられますから、建てられますよ!

この「あなたが借りられるお金」ですが、ほとんどの住宅会社の営業さんはお客さんが借りられるMAXの金額を出してくるはずです。

なぜなら「たくさんお金を借りて高い家を建てて欲しい」と思っている訳ですから、当然といえば当然です。

「そんなに借りられるの?」と、住宅の営業さんに言われただけでは不安だったとしても、銀行からも同じ返事がもらえたらきっと安心しますよね。

しかも、それまで若干疑っていた営業さんに対しても「正しいことを言ってくれていたんだ。」なんて具合に信頼度が高まり、営業マンと銀行マン2人のお墨付きをもらってすっかり安心しその通りにしてしまう。

こうして始まる家づくりのストーリーをよく耳にしますが実はこれ、とても危険な住宅ローンの始まり方なんです。

「借りられるお金」と「返せるお金」は違う

私自身もお客様に「自分たちは住宅ローンをどのくらい借りられるのか?」という質問をよく頂くのですが、まずは「自分たちが借りられるお金」と「自分たちが返せるお金」の根本的な違いを理解して頂く必要があります。

「借りられるお金」とは

「借りられるお金」というのはいわゆる「銀行からの借入可能額」です。

この借入可能額というのは「返済比率」(返済負担率ともいいます)から算出します。返済比率とは住宅ローンを借りる際の収入基準のひとつで、年収に対する年間返済額の割合をいいます。返済比率は以下の計算式で求めることができます。

返済比率(%)=住宅ローンの年間返済額の合計÷年収×100

この時の年収は税込年収(総支給額)をベースにします。金融機関や住宅ローンによって違いますが、一般的に銀行の水準は30%程度です。

例えば年収が400万円の方の場合。返済比率30%では約3,400万円借りられるという事になります。(35年固定金利1.25%とした場合)。単純に年収の8.5倍も借りられるという計算になるのです。

水準を超えてしまうと返済負担が重くなり返済が滞るリスクが高くなるので融資が受けられなくなります。逆を言えば、水準を超えなければ融資は受けられますし、受けられる範囲であればその全てが「あなたが借りられるお金」となります。

「返せるお金」とは?

では、「返せるお金」とは何でしょう?借りられるお金と同様、返済比率から導き出せるのでしょうか?

返済比率をどの位にしておくのが良いのか。インターネットで検索してみると

・25%以内が望ましい
・20~25%を目安に
・年収に応じて35%までは大丈夫

いう様な記事も多くあります。

私もお客様から「20%以内にしておけば大丈夫なんですよね?」というような質問をされたこともありますが、20%でも家計によっては負担が大きいケースもありますし、逆に余裕のあるケースもあります。

返済比率はあまりあてにしないでください。

考えてみてください。金融機関で確認されるのは

・年収
・年齢
・勤務先
・勤続年数

それだけで、月々の家計やご家族の状況については尋ねません。

返済比率というのは年収から単純計算しているので、家計状況に見合っていなくても借りられるのです。

私が伝えたい「返せるお金」というのは「無理なく返せる金額」の事を言います。

銀行側から見た時に「返せる額」というのは「毎月回収できる額」であり、お客さんが「無理なく返せるお金」とは限りません。

そのお金をどのように捻出しているのか、住宅ローンとそれ以外の家計とのバランスがどのような状態なのかは関係ないのです。

繰り返しますが、住宅購入専門のFPである私が伝える「返せるお金」とは、教育費や老後資金も見据えて算出した「あなたが借りても大丈夫な金額」です。

ローン返済以外の住居費(固定資産税や火災保険料)はもちろん、住宅購入前の生活と変わらずに趣味や旅行にもお金をかけますし、家を建ててからも貯金ができるような家計の中で支払っていかれる金額です。

産休、育休による収入の変動や子どもの教育費、老後資金の十分な確保をしっかりと見据えた「無理なく返済できる金額」があなたが把握するべき「返せるお金」となります。

「返せるお金」を把握する事が重要

重要なのは自分たちの「返せるお金」を知る事です。

しかしここまで説明した通り住宅会社や銀行で教えてくれるのはあなたの「借りられるお金」であって、あなたの「返せるお金」を教えてくれるところはありません。

これは、自分達で把握するしかないのです!

「返せるお金」を把握する方法

では、この「返せるお金」は具体的にどのようにして算出したら良いのでしょうか。

まず、長期的なライフプランニングが必要になります。ライフプランニングとは、簡単に言えば生涯の生活設計のことです。今は人生100年時代なんて言われていますから、生涯生活設計も長いものになります。そんなに先の事まで分からないと思うかもしれませんが、住宅ローンは最長で35年返済ですので、最低でも現在から40年後までは作成してみましょう。

まずはライフイベントを把握していきます。仕事の関係やご家族の進学に加え《車の買い替え時期》などのお金のかかるイベントは押さえておきましょう。また、希望がある場合には将来の出産予定やその後のお子さんの進学予定もプランにいれておくと良いでしょう。

<ライフイベント>
仕事・・・退職、産休、育休、復職、再就職など 

家族・・・出産、小学校入学、中学校入学、高校入学、大学等の入学、卒業など

その他・・・夫の車買い替え、妻の車買い替えなど

ライフイベントが把握出来たら、次にキャッシュフロー表に基づいた未来家計簿を作成します。キャッシュフローとは簡単に言うとお金の流れです。家計の収入や支出といった生涯のお金の流れを年単位で表にしたものがキャッシュフロー表です。

収入に関しては現在の収入をベースに今後の収入の見通しを立てて入れていきます。毎年の昇給の見込みが分かればその時期は少しずつ年収をあげていきます。

ここでも、出産の希望がある場合にはそれに合わせた産休や育休、退職等による収入の変化も考えておきましょう。

定年退職後の収入も、年金定期便などを活用して目安になる金額をいれておきます。児童手当や保険の還付金などその他の一時的な収入も思いつくものは入れておきます。

<収入>
・毎月の収入(流動的な残業代は含めません)
・ボーナス
・退職金(退職金や昇給は職場の先輩方にお話を参考にすると良いでしょう。)
・年金(年金定期便などを参考に。)
・児童手当
・保険の満期返戻金など

続いて、家計の支出です。支出は下の表を参考に項目を分けて考えると分かりやすいです。確実な固定費に加え、基本生活費のような流動性のある支出は平均的な数字で構いません。

ただ、本人には気付かない《使途不明金》というものがどの家庭にも必ず2~3万円存在します。

なので、導き出した平均的な基本生活費に2~3万円プラスしておくことをお勧めします。

<支出>
基本生活費・・・毎月の食費、光熱費、通信料、ガソリン代、お小遣いなど(2~3万円の使途不明金をプラス)

支払い保険料・・医療保険、終身保険、学資保険などの保険料や積み立て、個人年金などの固定費

教育費・・・・・お子さんの進学に合わせた希望進路にかかる費用、塾や習い事の費用など

車両費・・・・・車の買い替え時にかける車両費、車検や保険の費用など

住宅費・・・・・家賃、住宅ローン返済額、頭金など

ここでの住宅費ですが、まずは希望の住宅ローン予算でシミュレーションしてみてください。この希望の予算が本当に自分たちが払える金額なのかを確認する為です。

最後に、年間収支と貯蓄残高です。貯蓄残高は現在の貯蓄額に翌年の年間収支額を加えていきます年間収支がマイナスになる時期があっても、貯蓄で補っていければ大丈夫です。

こうして30年後40年後と長期的な資産状況を把握します。貯蓄残高がマイナスになってしまうプランはいけません。そのような場合は住宅費を希望の借入金額から少しずつ抑えられる金額へ下げていきます。

ここで気を付けて欲しいのは、住宅ローンに合わせて他の支出を減らさないという事です。生活費を切り詰めながら住宅ローンを支払うのではありません。それでは「無理のない」返済にはなりません。

これ以上はどうしても住宅費を下げられない!という場合には、無理なく削れる費用を探したり、仕事の復帰時期や退職時期を変えて再度シミュレーションします。家を建ててからも無理がなく、お金に困らない生活を考えましょう。

大切なのは家を建てることではなく、家を建ててから始まる生活です。

住宅会社や銀行の言う事を鵜呑みにしてはいけない

銀行で伝えてくれる「あなたはこの位借りても大丈夫ですよ。」という言葉は、「審査が通ってローンを組めますよ。」という意味であって「その金額を借りてもあなたの家計は大丈夫ですよ。」という意味ではありません。

銀行の「大丈夫」を鵜呑みにして住宅ローンを組んだ結果、家計に負担のかかる返済を続けて貯金ができなくなる生活を送る人は少なくありません。

実際に多いのが次のようなケースです。

住宅購入をして数年後、働き方改革による残業カットに伴い収入は減ってしまった。

それに引き換えお子さんの成長と共に教育資金は増えていくばかり。この負の連鎖に家計が追いつかずに生活は年々厳しくなってくる。

そうなると貯金を切り崩しながら日々の生活を送らなければならなくなってしまう。老後の不安が募るばかりか、貯金が出来ないのですからせっかく建てたマイホームのメンテナンス費用も用意できない・・・。

趣味の旅行も我慢して車の買い替えも先延ばしにして、住宅購入後の生活がゆとりのない生活になってしまう。

これでは、何の為に家を買ったのか分かりません。

「返せるお金」を客観的な目線から明確にしたい場合

自分の「返せるお金」を知ることはとても重要な事です。是非、住宅公園に足を運ぶ前にご自身の「返せるお金」を知ってください。自分の確かな予算を知ってから住宅会社や銀行へ行くことで、安心な家づくりが始められます。家を買いたいと思ったら、まずは適切な予算を知ることから始めましょう。

もし、こういったライフプランやキャッシュフロー表の作成が「自分でできない」「自信がない」という場合には弊社にお問合せ下さい。

『山梨住まいのFP相談室』では、このようなライフプランの作成からあなたの無理なく借りられるお金を算出する「住宅購入予算診断サービス」を5,500円(税込)で承っています。お客様から直接相談料を頂くことで、何かを売ることを目的とせずに第三者の中立した立場から診断をし、お客様優位なアドバイスを致します。